ひろすけ童話賞受賞作品

  

第26回ひろすけ童話賞(平成27年度)

『わたしちゃん』 作・石井睦美 / 小峰書店

あらすじ

まりは、パパの仕事の都合で夏休みに海のない町へ引っ越してきました。大好きな海や友だちと離れてしまったのです。ママはお片付け、パパは会社、しかも新しい町にはまだ友だちがいないので、夏休みなのに誰とでも遊べません。公園に行ってみることにしたまりは、途中、誰もいない道で声をかけられます。妖精?おばけ?そう思っていると、生垣からあらわれた女の子に庭で遊ぼうと誘われます。庭にはすてきなおままごとの道具がありました。夏休みにおじいちゃんお家にきたという女の子。まりは、海を知らないという女の子と海に行く約束をします。はじめて遊んだのに、ずっと前から知っている友だちみたい…。と帰り際、名前を尋ねると、女の子は「わたし」と答えます。まりは、変わった名前だけどいい名前とおもいながら、「わたしちゃん、またあしたね」と別れます。ところが、翌日家を訪ねると、家から出てきたおばあさんに「うちにはこどもがいない」といわれてしまいます。家を間違えたのではありません。でも、まりにはおばあさんがうそをいっていないこともわかりました。夏休みの間、何度も家の前まで行きますが、わたしちゃんに会うことはありませんでした。まりは、海へ行くたび、「わたしちゃん、海に行ったのかな」と思うのでした。

受賞者プロフィール

1957年、神奈川県生まれ。フェリス女学院大学卒。出版社勤務の後、前川康男氏に師事し、創作をはじめる。『五月のはじめ、日曜日の朝』で毎日新聞小さな童話大賞と新美南吉児童文学賞、『皿と紙ひこうき』で日本児童文学者協会賞、翻訳を手がけた『ジャックのあたらしいヨット』で産経児童出版文化大賞を、また小説『パスカルの恋』で朝日新人文学賞を受賞。2005年から2012年まで雑誌「飛ぶ教室」の編集人を務めた。

受賞者のことば

わたしの創作活動は、ある夜に見た夢から始まりました。書き記すと、原稿用紙五枚の物語みたいなものができました。その日から、童話を書きはじめました。幼年の童話を書くことは、なによりも難しいことでした。それは、幼年の目で世界を見、幼年のこころで世界を感じ、そしてそれを表現することが難しいからです。楽しくて、難しい。幼年童話『わたしちゃん』で、この素晴らしい賞をいただけたことをこころから感謝し、精進を重ねたいと思います。